公布・最近の改正情報
公布:明治29年 4月27日(法律89号)
改正:平成25年12月11日(法律94号)
目次
第1編 総則
第2編 物権
第1章 総則(第175条-第179条)
第2章 占有権
第1節 占有権の取得(第180条-第187条)
第2節 占有権の効力(第188条-第202条)
第3節 占有権の消滅(第203条・第204条)
第4節 準占有(第205条)
第3章 所有権
第1節 所有権の限界
第1款 所有権の内容及び範囲(第206条-第208条)
第2款 相隣関係(第209条-第238条)
第2節 所有権の取得(第239条-第248条)
第3節 共有(第249条-第264条)
第4章 地上権(第265条-第269条の2)
第5章 永小作権(第270条-第279条)
第6章 地役権(第280条-第294条)
第7章 留置権(第295条-第302条)
第8章 先取特権
第1節 総則(第303条-第305条)
第2節 先取特権の種類
第1款 一般の先取特権(第306条-第310条)
第2款 動産の先取特権(第311条-第324条)
第3款 不動産の先取特権(第325条-第328条)
第3節 先取特権の順位(第329条-第332条)
第4節 先取特権の効力(第333条-第341条)
第9章 質権
第1節 総則(第342条-第351条)
第2節 動産質(第352条-第355条)
第3節 不動産質(第356条-第361条)
第4節 権利質(第362条-第368条)
第10章 抵当権
第1節 総則(第369条-第372条)
第2節 抵当権の効力(第373条-第395条)
第3節 抵当権の消滅(第396条-第398条)
第4節 根抵当(第398条の2-第398条の22)
第3編 債権
第4編 親族
第5編 相続
第2編 物権
第1章 総則
(物権の創設)
第175条
物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
(物権の設定及び移転)
第176条
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第178条
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
(混同)
第179条
1項
同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
2項
所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
3項
前二項の規定は、占有権については、適用しない。
第2章 占有権
第1節 占有権の取得
(占有権の取得)
第180条
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
(代理占有)
第181条
占有権は、代理人によって取得することができる。
(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
第182条
1項
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
2項
譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。
(占有改定)
第183条
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
(指図による占有移転)
第184条
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
(占有の性質の変更)
第185条
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
(占有の態様等に関する推定)
第186条
1項
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
(占有の承継)
第187条
1項
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
第2節 占有権の効力
(占有物について行使する権利の適法の推定)
第188条
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
(善意の占有者による果実の取得等)
第189条
1項
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2項
善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
(悪意の占有者による果実の返還等)
第190条
1項
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
2項
前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
(占有者による損害賠償)
第191条
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。
(即時取得)
第192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(盗品又は遺失物の回復)
第193条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
第194条
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
(動物の占有による権利の取得)
第195条
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から1箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。
(占有者による費用の償還請求)
第196条
1項
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2項
占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
(占有の訴え)
第197条
占有者は、次条から第202条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
(占有保持の訴え)
第198条
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え)
第199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
第200条
1項
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2項
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
(占有の訴えの提起期間)
第201条
1項
占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
2項
占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。
3項
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。
(本権の訴えとの関係)
第202条
1項
占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
2項
占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
第3節 占有権の消滅
(占有権の消滅事由)
第203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。
(代理占有権の消滅事由)
第204条
1項
代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。
1.本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
2.代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
3.代理人が占有物の所持を失ったこと。
2項
占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。
第4節 準占有
第205条
この章の規定は、自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。
第3章 所有権
第1節 所有権の限界
第1款 所有権の内容及び範囲
(所有権の内容)
第206条
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
(土地所有権の範囲)
第207条
土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。
第208条
削除
第2款 相隣関係
(隣地の使用請求)
第209条
1項
土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2項
前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
(公道に至るための他の土地の通行権)
第210条
1項
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2項
池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
第211条
1項
前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2項
前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
第212条
第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。
第213条
1項
分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2項
前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
(自然水流に対する妨害の禁止)
第214条
土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
(水流の障害の除去)
第215条
水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞したときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。
(水流に関する工作物の修繕等)
第216条
他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。
(費用の負担についての慣習)
第217条
前二条の場合において、費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う。
(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
第218条
土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
(水流の変更)
第219条
1項
溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。
2項
両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
3項
前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(排水のための低地の通水)
第220条
高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
(通水用工作物の使用)
第221条
1項
土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
2項
前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
(堰の設置及び使用)
第222条
1項
水流地の所有者は、堰を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
2項
対岸の土地の所有者は、水流地の一部がその所有に属するときは、前項の堰を使用することができる。
3項
前条第2項の規定は、前項の場合について準用する。
(境界標の設置)
第223条
土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
(境界標の設置及び保存の費用)
第224条
境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
(囲障の設置)
第225条
1項
二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
2項
当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ2メートルのものでなければならない。
(囲障の設置及び保存の費用)
第226条
前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
(相隣者の一人による囲障の設置)
第227条
相隣者の一人は、第225条第2項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。
(囲障の設置等に関する慣習)
第228条
前三条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(境界標等の共有の推定)
第229条
境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
第230条
1項
一棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については、前条の規定は、適用しない。
2項
高さの異なる二棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが、低い建物の高さを超えるときは、その障壁のうち低い建物を超える部分についても、前項と同様とする。ただし、防火障壁については、この限りでない。
(共有の障壁の高さを増す工事)
第231条
1項
相隣者の一人は、共有の障壁の高さを増すことができる。ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。
2項
前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。
第232条
B 前条の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条
1項
隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2項
隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
(境界線付近の建築の制限)
第234条
1項
建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
2項
前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
第235条
1項
境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
2項
前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
(境界線付近の建築に関する慣習)
第236条
前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(境界線付近の掘削の制限)
第237条
1項
井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から2メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から1メートル以上の距離を保たなければならない。
2項
導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない。ただし、1メートルを超えることを要しない。
(境界線付近の掘削に関する注意義務)
第238条
境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。
第2節 所有権の取得
(無主物の帰属)
第239条
1項
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2項
所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
(遺失物の拾得)
第240条
遺失物は、遺失物法(平成18年法律第73号)の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
(埋蔵物の発見)
第241条
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
(不動産の付合)
第242条
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
(動産の付合)
第243条
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
第244条
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
(混和)
第245条
前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。
(加工)
第246条
1項
他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2項
前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
(付合、混和又は加工の効果)
第247条
1項
第242条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
2項
前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。
(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第248条
第242条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第703条及び第704条の規定に従い、その償金を請求することができる。
第3節 共有
(共有物の使用)
第249条
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
(共有持分の割合の推定)
第250条
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
(共有物の変更)
第251条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
(共有物に関する負担)
第253条
1項
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2項
共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
(共有物についての債権)
第254条
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第255条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
(共有物の分割請求)
第256条
1項
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2項
前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
第257条
前条の規定は、第229条に規定する共有物については、適用しない。
(裁判による共有物の分割)
第258条
1項
共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2項
前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
(共有に関する債権の弁済)
第259条
1項
共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
2項
債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。
(共有物の分割への参加)
第260条
1項
共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2項
前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
(分割における共有者の担保責任)
第261条
各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。
(共有物に関する証書)
第262条
1項
分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
2項
共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
3項
前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
4項
証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。
(共有の性質を有する入会権)
第263条
共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。
(準共有)
第264条
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
第4章 地上権
(地上権の内容)
第265条
地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
(地代)
第266条
1項
第274条から第276条までの規定は、地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。
2項
地代については、前項に規定するもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。
(相隣関係の規定の準用)
第267条
前章第1節第2款(相隣関係)の規定は、地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし、第229条の規定は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り、地上権者について準用する。
(地上権の存続期間)
第268条
1項
設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において、別段の慣習がないときは、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。ただし、地代を支払うべきときは、1年前に予告をし、又は期限の到来していない1年分の地代を支払わなければならない。
2項
地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは、裁判所は、当事者の請求により、20年以上50年以下の範囲内において、工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮して、その存続期間を定める。
(工作物等の収去等)
第269条
1項
地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。
2項
前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(地下又は空間を目的とする地上権)
第269条の2
1項
地下又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
2項
前項の地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定することができる。この場合において、土地の使用又は収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。
第5章 永小作権
(永小作権の内容)
第270条
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
(永小作人による土地の変更の制限)
第271条
永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。
(永小作権の譲渡又は土地の賃貸)
第272条
永小作人は、その権利を他人に譲り渡し、又はその権利の存続期間内において耕作若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。ただし、設定行為で禁じたときは、この限りでない。
(賃貸借に関する規定の準用)
第273条
永小作人の義務については、この章の規定及び設定行為で定めるもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。
(小作料の減免)
第274条
永小作人は、不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除又は減額を請求することができない。
(永小作権の放棄)
第275条
永小作人は、不可抗力によって、引き続き3年以上全く収益を得ず、又は5年以上小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。
(永小作権の消滅請求)
第276条
永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。
(永小作権に関する慣習)
第277条
第271条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(永小作権の存続期間)
第278条
1項
永小作権の存続期間は、20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
2項
永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から50年を超えることができない。
3項
設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、30年とする。
(工作物等の収去等)
第279条
第269条の規定は、永小作権について準用する。
第6章 地役権
(地役権の内容)
第280条
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第3章第1節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
(地役権の付従性)
第281条
1項
地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2項
地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。
(地役権の不可分性)
第282条
1項
土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
2項
土地の分割又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために又はその各部について存する。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。
(地役権の時効取得)
第283条
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
第284条
1項
土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。
2項
共有者に対する時効の中断は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。
3項
地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その一人について時効の停止の原因があっても、時効は、各共有者のために進行する。
(用水地役権)
第285条
1項
用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において、水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2項
同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は、前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。
(承役地の所有者の工作物の設置義務等)
第286条
設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。
第287条
承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより前条の義務を免れることができる。
(承役地の所有者の工作物の使用)
第288条
1項
承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。
2項
前項の場合には、承役地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
(承役地の時効取得による地役権の消滅)
第289条
承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する。
第290条
前条の規定による地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する。
(地役権の消滅時効)
第291条
第167条第2項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
第292条
要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の中断又は停止があるときは、その中断又は停止は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。
第293条
地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する。
(共有の性質を有しない入会権)
第294条
共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。
第7章 留置権
(留置権の内容)
第295条
1項
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2項
前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
(留置権の不可分性)
第296条
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。
(留置権者による果実の収取)
第297条
1項
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2項
前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
(留置権者による留置物の保管等)
第298条
1項
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3項
留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
(留置権者による費用の償還請求)
第299条
1項
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
2項
留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
(留置権の行使と債権の消滅時効)
第300条
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。
(担保の供与による留置権の消滅)
第301条
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。
(占有の喪失による留置権の消滅)
第302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
第8章 先取特権
第1節 総則
(先取特権の内容)
第303条
先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
(物上代位)
第304条
1項
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2項
債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
(先取特権の不可分性)
第305条
第296条の規定は、先取特権について準用する。
第2節 先取特権の種類
第1款 一般の先取特権
(一般の先取特権)
第306条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
1.共益の費用
2.雇用関係
3.葬式の費用
4.日用品の供給
(共益費用の先取特権)
第307条
1項
共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
2項
前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。
(雇用関係の先取特権)
第308条
雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
(葬式費用の先取特権)
第309条
1項
葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
2項
前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
(日用品供給の先取特権)
第310条
日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。
第2款 動産の先取特権
(動産の先取特権)
第311条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
1.不動産の賃貸借
2.旅館の宿泊
3.旅客又は荷物の運輸
4.動産の保存
5.動産の売買
6.種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
7.農業の労務
8.工業の労務
(不動産賃貸の先取特権)
第312条
不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。
(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
第313条
1項
土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
2項
建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
第314条
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。
(不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲)
第315条
賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。
第316条
賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
(旅館宿泊の先取特権)
第317条
旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。
(運輸の先取特権)
第318条
運輸の先取特権は、旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し、運送人の占有する荷物について存在する。
(即時取得の規定の準用)
第319条
第192条から第195条までの規定は、第312条から前条までの規定による先取特権について準用する。
(動産保存の先取特権)
第320条
動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。
(動産売買の先取特権)
第321条
動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。
(種苗又は肥料の供給の先取特権)
第322条
種苗又は肥料の供給の先取特権は、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、その種苗又は肥料を用いた後1年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。
(農業労務の先取特権)
第323条
農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の1年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。
(工業労務の先取特権)
第324条
工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の3箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。
第3款 不動産の先取特権
(不動産の先取特権)
第325条
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
1.不動産の保存
2.不動産の工事
3.不動産の売買
(不動産保存の先取特権)
第326条
不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。
(不動産工事の先取特権)
第327条
1項
不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2項
前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
(不動産売買の先取特権)
第328条
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。
第3節 先取特権の順位
(一般の先取特権の順位)
第329条
1項
一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第306条各号に掲げる順序に従う。
2項
一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。
(動産の先取特権の順位)
第330条
1項
同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第2号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
1.不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
2.動産の保存の先取特権
3.動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2項
前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3項
果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。
(不動産の先取特権の順位)
第331条
1項
同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第325条各号に掲げる順序に従う。
2項
同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。
(同一順位の先取特権)
第332条
同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
第4節 先取特権の効力
(先取特権と第三取得者)
第333条
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
(先取特権と動産質権との競合)
第334条
先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第330条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。
(一般の先取特権の効力)
第335条
1項
一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
2項
一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
3項
一般の先取特権者は、前2項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
4項
前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。
(一般の先取特権の対抗力)
第336条
一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。
(不動産保存の先取特権の登記)
第337条
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。
(不動産工事の先取特権の登記)
第338条
1項
不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2項
工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。
(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
第339条
前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。
(不動産売買の先取特権の登記)
第340条
不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
(抵当権に関する規定の準用)
第341条
先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。
第9章 質権
第1節 総則
(質権の内容)
第342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
(質権の目的)
第343条
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
(質権の設定)
第344条
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
(質権設定者による代理占有の禁止)
第345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
(質権の被担保債権の範囲)
第346条
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
(質物の留置)
第347条
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
(転質)
第348条
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
(契約による質物の処分の禁止)
第349条
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
(留置権及び先取特権の規定の準用)
第350条
第296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。
(物上保証人の求償権)
第351条
他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。
第2節 動産質
(動産質の対抗要件)
第352条
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。
(質物の占有の回復)
第353条
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。
(動産質権の実行)
第354条
動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。
(動産質権の順位)
第355条
同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。
第3節 不動産質
(不動産質権者による使用及び収益)
第356条
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。
(不動産質権者による管理の費用等の負担)
第357条
不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。
(不動産質権者による利息の請求の禁止)
第358条
不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。
(設定行為に別段の定めがある場合等)
第359条
前三条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法(昭和54年法律第4号)第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。
(不動産質権の存続期間)
第360条
1項
不動産質権の存続期間は、10年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、10年とする。
2項
不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から10年を超えることができない。
(抵当権の規定の準用)
第361条
不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。
第4節 権利質
(権利質の目的等)
第362条
1項
質権は、財産権をその目的とすることができる。
2項
前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前3節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。
(債権質の設定)
第363条
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。
(指名債権を目的とする質権の対抗要件)
第364条
指名債権を質権の目的としたときは、第467条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
(指図債権を目的とする質権の対抗要件)
第365条
指図債権を質権の目的としたときは、その証書に質権の設定の裏書をしなければ、これをもって第三者に対抗することができない。
(質権者による債権の取立て等)
第366条
1項
質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2項
債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3項
前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
4項
債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。
第367条
削除
第368条
削除
第10章 抵当権
第1節 総則
(抵当権の内容)
第369条
1項
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2項
地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
第370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。
第371条
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
(留置権等の規定の準用)
第372条
第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。
第2節 抵当権の効力
(抵当権の順位)
第373条
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。
(抵当権の順位の変更)
第374条
1項
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
2項
前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。
(抵当権の被担保債権の範囲)
第375条
1項
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2項
前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。
(抵当権の処分)
第376条
1項
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
2項
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
(抵当権の処分の対抗要件)
第377条
1項
前条の場合には、第467条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
2項
主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
(代価弁済)
第378条
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
(抵当権消滅請求)
第379条
抵当不動産の第三取得者は、第383条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。
第380条
主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。
第381条
抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。
(抵当権消滅請求の時期)
第382条
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。
(抵当権消滅請求の手続)
第383条
抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
1.取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
2.抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
3.債権者が2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第1号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
(債権者のみなし承諾)
第384条
次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第3号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。
1.その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
2.その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
3.第1号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
4.第1号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第188条において準用する同法第63条第3項若しくは第68条の3第3項の規定又は同法第183条第1項第5号の謄本が提出された場合における同条第2項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
(競売の申立ての通知)
第385条
第383条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、前条第1号の申立てをするときは、同号の期間内に、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
(抵当権消滅請求の効果)
第386条
登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは、抵当権は、消滅する。
(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
第387条
1項
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
2項
抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
(法定地上権)
第388条
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
(抵当地の上の建物の競売)
第389条
1項
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
2項
前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。
(抵当不動産の第三取得者による買受け)
第390条
抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる。
(抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求)
第391条
抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは、第196条の区別に従い、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる。
(共同抵当における代価の配当)
第392条
1項
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。
2項
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
(共同抵当における代位の付記登記)
第393条
前条第2項後段の規定により代位によって抵当権を行使する者は、その抵当権の登記にその代位を付記することができる。
(抵当不動産以外の財産からの弁済)
第394条
1項
抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。
2項
前項の規定は、抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には、適用しない。この場合において、他の各債権者は、抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。
(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
第395条
1項
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
1.競売手続の開始前から使用又は収益をする者
2.強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2項
前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
第3節 抵当権の消滅
(抵当権の消滅時効)
第396条
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
第397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
(抵当権の目的である地上権等の放棄)
第398条
地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。
第4節 根抵当
(根抵当権)
第398条の2
1項
抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
2項
前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
3項
特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
(根抵当権の被担保債権の範囲)
第398条の3
1項
根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
2項
債務者との取引によらないで取得する手形上又は小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において、次に掲げる事由があったときは、その前に取得したものについてのみ、その根抵当権を行使することができる。ただし、その後に取得したものであっても、その事由を知らないで取得したものについては、これを行使することを妨げない。
1.債務者の支払の停止
2.債務者についての破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立て
3.抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え
(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更)
第398条の4
1項
元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。
2項
前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
3項
第1項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。
(根抵当権の極度額の変更)
第398条の5
根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。
(根抵当権の元本確定期日の定め)
第398条の6
1項
根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。
2項
第398条の4第2項の規定は、前項の場合について準用する。
3項
第1項の期日は、これを定め又は変更した日から5年以内でなければならない。
4項
第1項の期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定する。
(根抵当権の被担保債権の譲渡等)
第398条の7
1項
元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も、同様とする。
2項
元本の確定前に債務の引受けがあったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができない。
3項
元本の確定前に債権者又は債務者の交替による更改があったときは、その当事者は、第518条の規定にかかわらず、根抵当権を更改後の債務に移すことができない。
(根抵当権者又は債務者の相続)
第398条の8
1項
元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
2項
元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
3項
第398条の4第2項の規定は、前2項の合意をする場合について準用する。
4項
第1項及び第2項の合意について相続の開始後6箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。
(根抵当権者又は債務者の合併)
第398条の9
1項
元本の確定前に根抵当権者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債権のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。
2項
元本の確定前にその債務者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債務のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。
3項
前二項の場合には、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、前項の場合において、その債務者が根抵当権設定者であるときは、この限りでない。
4項
前項の規定による請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。
5項
第3項の規定による請求は、根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間を経過したときは、することができない。合併の日から1箇月を経過したときも、同様とする。
(根抵当権者又は債務者の会社分割)
第398条の10
1項
元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債権のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。
2項
元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債務のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。
3項
前条第3項から第5項までの規定は、前二項の場合について準用する。
(根抵当権の処分)
第398条の11
1項
元本の確定前においては、根抵当権者は、第376条第1項の規定による根抵当権の処分をすることができない。ただし、その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。
2項
第377条第2項の規定は、前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については、適用しない。
(根抵当権の譲渡)
第398条の12
1項
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる。
2項
根抵当権者は、その根抵当権を2個の根抵当権に分割して、その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。
3項
前項の規定による譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。
(根抵当権の一部譲渡)
第398条の13
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
(根抵当権の共有)
第398条の14
1項
根抵当権の共有者は、それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける。ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め、又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従う。
2項
根抵当権の共有者は、他の共有者の同意を得て、第398条の12第1項の規定によりその権利を譲り渡すことができる。
(抵当権の順位の譲渡又は放棄と根抵当権の譲渡又は一部譲渡)
第398条の15
抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が、その根抵当権の譲渡又は一部譲渡をしたときは、譲受人は、その順位の譲渡又は放棄の利益を受ける。
(共同根抵当)
第398条の16
第392条及び第393条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。
(共同根抵当の変更等)
第398条の17
1項
前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。
2項
前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は、1個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても、確定する。
(累積根抵当)
第398条の18
数個の不動産につき根抵当権を有する者は、第398条の16の場合を除き、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。
(根抵当権の元本の確定請求)
第398条の19
1項
根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から3年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から2週間を経過することによって確定する。
2項
根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。
3項
前二項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。
(根抵当権の元本の確定事由)
第398条の20
1項
次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は、確定する。
1.根抵当権者が抵当不動産について競売若しくは担保不動産収益執行又は第372条において準用する第304条の規定による差押えを申し立てたとき。ただし、競売手続若しくは担保不動産収益執行手続の開始又は差押えがあったときに限る。
2.根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。
3.根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき。
4.債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2項
前項第3号の競売手続の開始若しくは差押え又は同項第4号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は、確定しなかったものとみなす。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。
(根抵当権の極度額の減額請求)
第398条の21
1項
元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。
2項
第398条の16の登記がされている根抵当権の極度額の減額については、前項の規定による請求は、そのうちの1個の不動産についてすれば足りる。
(根抵当権の消滅請求)
第398条の22
1項
元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。
2項
第398条の16の登記がされている根抵当権は、1個の不動産について前項の消滅請求があったときは、消滅する。
3項
第380条及び第381条の規定は、第1項の消滅請求について準用する。